CALENDAR
S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< September 2017 >>
NEW ENTRY
PROFILE
CATEGORY
ARCHIVES
LINK
人気ブログランキング
人気ブログランキングへ
OTHER
メイキング情報 + クリエイター・モードのつぶやき。
感想、随時受け付け。コメントは「足跡帳」へどうぞ。
「神隠しの惑星」サイトは
http://yachibouz.jougennotuki.com/index.html
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています


2015.05.26.Tue | -
2.箱の底には [もうひとつの歌]
JUGEMテーマ:自作小説
 

 5歳の誕生日に、グランマが私にくれたのは鳴らないオルゴールだった。

 
 グランマは、亡くなったグランパの時計工房を引き継いで、おもちゃなんかの修理を請け負っていた。他の時計職人からからくり時計に仕込む細工ものを頼まれたりもする。台所の飾り棚を作ったり、カウンターワゴンに凝った透かし彫りを施したり。
 工房にはいつも、木のいい匂いがして、私は何時間でも飽きずにグランマが細工をするのを見ていた。くるくるっと丸まったけずり屑もいい匂い。集めて枕やクッションに入れるのが私の役目だ。




 
 からくり仕掛けのついたオルゴールを作るのは、グランマの趣味だった。特に頼まれれば、他の人のために作ることもあるけれど、工房に飾ってあるものはすべて非売品。
 最初の一個は、グランパがグランマに贈ったものだそうだ。箱を開けると、音楽に合わせて梢から梢に小鳥が飛び交う細工だった。

 私は5つ、オルゴールを持っている。

 ひとつは一歳の時のお誕生プレゼント。蓋は側面にクローバーが彫ってある。四隅には四つ葉。箱を開けるとクマが3匹、はちみつの壺を持ってぎくしゃくユーモラスに踊る。もらった時のことは覚えていないけれど、赤ちゃんのとき、グランマが蓋を開ける度にきゃっきゃと笑ったそうだ。

 ふたつめは、森の中の湖の風景が箱の外に彫ってあって、開けると波の間を大きな魚が勢いよく泳いでいく。

 みっつめは、花いっぱいのお庭の風景。蝶ちょがふわふわ飛ぶ仕掛け。私は歌いながら、飽きずに何度も蓋を開けたり閉めたりしていたのを覚えている。

 よっつめは夜の森。梢の上に、石造りの塔がそびえている。箱の中にはお姫様が機を織りながら歌っている。

「囚われのお姫様なのよ」
「どうして塔の外に逃げないの?」
「呪いがかかっているの。綺麗な機を織らないと、解放されないの」

 グランマは、オルゴールの風景に合わせたお話をするのがうまかった。4つの箱はそれぞれ、別の舞台を持っていて、それぞれに物語が進んでいく。私は寝る前に、オルゴールをひとつ選んでお話をねだるのだった。

 時々は、工房の非売品のオルゴールについて昔語りをしてくれることもあった。グランパの話、昔のお祭りの話。この工房で作った大きなからくり時計の話。


 あと一週間で5歳のお誕生日という日。あの日、転がり込んだビー玉を探してグランマのベッドの下に潜り込んだ。
 そこにはオルゴールがひとつ。

 私の持っているオルゴールや、今まで見せてもらったものは全部、白木のままだったのに、それは綺麗に彩色されていた。唐草模様のように絡まるバラのつる。赤や白やピンクのバラの花。そして真っ白なお城。

 もしかして、誕生プレゼント?
 私に見つからないように、ここに隠しておいたのかも。

 いけないと思ったけど、私はオルゴールの中を見たくてたまらなかった。こんなに綺麗な箱なんだもの。中のからくりもきっと綺麗にちがいない。

 ベッドの下から引っ張り出して、オルゴールを開けようとすると、
「おやめ!」
とするどい声が聞こえて、びくっとして振り向いた。
 グランマが真っ青な顔で立っている。棒を飲んだようにひどくまっすぐに。両手を胸の前でぎゅっと握っている。叱るときにも、静かに話すだけで声を荒げたことのないグランマが、大きな声を出したので、私はすっかりびっくりしてしまった。

 でも振り向いた時には、もう蓋に手をかけてしまっていた。
 そして、オルゴールが鳴り始めた。

 それが何の曲なのかわからなかった。

 最初の一音を聞いた途端、私は真っ黒な竜巻に巻き込まれてしまったから。


 落ち葉や屋根がわらが舞い踊って、私の手や顔をビシビシビシと叩いていく。凄まじい風に押されて上も下もわからない。そして真っ暗な穴の中に落ちてしまった。
 しん、として音が聞こえない。まだ耳はさっきまでの風の轟音と冷たさでじんじんしている。でもそこは怖いぐらい静かだった。辺りは真っ暗なのに、私の立っているところだけスポットライトのように光のはしごが降りている。そして上から雪がキラキラと降っている。何の音もなく、ただゆっくりとキラキラ光りながら。

 手のひらに受けても冷たくない。
 じいっと見ていても、ちっとも融けない。ただキラキラと光っている。

 これは雪じゃなくってガラスだわ!

 そう気付いた瞬間だった。

 ごおっと竜巻巻き起こり、ガラスの雪が私の周りを舞い始めた。
 キラキラと光りながら。私の身体を切り刻みながら。私は痛くて叫んだけれど、その声は風に飛ばされて聞こえなかった。目が痛いほどのまぶしい強い光の柱。その柱の中で、私は風にはりつけにあったように、逃げられない。ピ、ピ、ピと皮膚を切り裂いて、ガラスの雪が踊っている。

 私はただ、光の柱の真中に浮いたまま、目の前に差し出した自分の手のひらが血を噴き出すのを見つめているだけだった。

 
「スオミ!」

 私を呼ぶ声がする。

「手を、手をこっちに伸ばして!」

 こっちってどっち?

「さあ! 手をつかんで!」

 光の柱の中に、白い手が現れた。グランマの手だ。
 その手も、ガラスの雪に切られてみるみる傷だらけになっていく。

「さあ、早く! お祖母ちゃんの手を握るのよ!」

 私は手を伸ばそうとしたけれど、風と痛さに負けてなかなか届かない。

「スオミ! がんばるのよ!」

 手だけしか見えない。グランマの顔は光の柱の外。真っ暗闇の中から呼びかけているのだ。私は滝の中に手を入れるように、風の勢いに抗いながら一生懸命腕を伸ばした。
 指がかかっても、何度も風になぶられてしっかりつかめない。血ですべって手を握ることができない。泣きたいけれど、泣いていたと思うけれど、自分の声が聞こえない。
 でも、グランマの声だけは、凄まじい風に負けずにはっきりと私に届いた。

「あきらめてはダメ! あんたまで、お母さんみたいに負けちゃだめ! あんたは生き残ったんだよ。スオミは生きてかなきゃいけないんだよ! 私を置いて、あんたまで死んじゃう気かい? さあっ、がんばって!」

 お母さん?
 
 私はお母さんの顔を知らない。何度せがんでも、グランマはお母さんのことを教えてくれない。それにダディも。私はお母さんの名前も知らないのだ。

「負けちゃダメ! あんたまで、エルミみたいに死んじゃダメ!」 

 お母さんは死んじゃったの? お母さんはエルミというの? もっとお母さんのこと、知りたい。何も知らないまま、死にたくない。

「グランマ!」
 
 私はしっかりとグランマの手をつかんだ。そしてぐいっと引っ張られて、光の柱の外、真っ暗闇の中に引っ張り出された。何の音もしない、何も見えない、闇の中に。


 夢かと思っていたのに、ベッドの中で気付いた時、私は包帯でぐるぐる巻きにされていた。そして私の手を握っている、グランマの腕も顔も傷だらけだった。

 そして、部屋も傷だらけだった。

 何もかも、竜巻にあったようにひっくり返って壊れていた。
 天井の梁が削れてデコボコになっている。机も本棚も真中で折れたように崩れているし、本はただの紙屑になって床に散らばっている。

 声を出そうとしたけど、声が出ない。

「しーっ」

 私の手を握って、グランマが静かに言った。

「今は何もしゃべらなくていい。約束する。エルミのことを教えてあげる。あんたのダディがどこにいるかもね。でも今は、お休み。何も考えずに眠っておしまい」

 私もグランマの手を握り返そうとしたけど、ビリッと痛みが走って力を込められなかった。

「わかってる。約束だよ。だからお休み」

 綺麗なつるバラの森の中に、私は何を見つけたんだろう。
 教えてくれると、グランマが言った。だから今は眠ろう。

 バラに囲まれた森の中で。





2011.06.18.Sat 12:17 | [もうひとつの歌]
スポンサーサイト

2015.05.26.Tue | -

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.